2012/02/18

【書籍】「ドキュメント 隠された公害―イタイイタイ病を追って」 (ちくま文庫)鎌田 慧

本来なら今頃、コメのカドミウム濃度にもっと消費者やメディアの注意・関心が向けられていたハズです。食品衛生法に基づく米のカドミウム基準値が従前の「1.0ppm未満」から「0.4ppm以下」へ改正され、今から1年前の平成23年2月に施行されているからです。

この改正に先立ち、生産地サイドではカドミウムを吸収しにくい栽培方法が指導され、単位農協が自主検査の体制を整えたり、サンプリング地点を大幅に増やし可能な限り事前ブロックできるようにするなどの準備がすすめられていたようです。が、改正法施行直後に震災が発生、福島第一原発由来の放射性物質による汚染が大問題で、消費者やメディアはカドミウムを気にするどころではなくなりました。

私が、この ドキュメント 隠された公害―イタイイタイ病を追って (ちくま文庫) を読んだのは平成23年7月。世間は原発事故による放射性物質による被害と事実の隠蔽、情報操作にまつわる不信であふれていた時期です。この本を読みながら、その内容と現実に進行している原発問題との間に強いデ・ジャブをおぼえました。

この本は40年以上前、富山に続き対馬でも発生したイタイイタイ病を、当時朝日新聞社の記者だった著者が取材したものです。対馬のイタイイタイ病の原因は高濃度のカドミウムを含むT社鉱山からの排水ですが、たいした産業もない田舎ではこの鉱山は特別な存在。地元住民の大部分は鉱山と何らかの関係があるし、T社は地元に金を落としてくれる唯一の企業で、T社のおかげで鉱山の近くの集落は島内の他の集落よりも高い生活水準を享受していたりします。そんな状況で著者は取材をすすめるのですが、地元の人間は非協力的で、病気や汚染の存在すら否定されるわけです。
地元に金を落とす施設を失いたくない自治体、生活のため汚染被害を否定したい人たち、金で篭絡された地元有力者、加害企業とズブズブの町長や議員たち、負うべき責任を無いことにしたい企業、カドミウムは怖くないというプロパガンダ、強弁や恫喝、イタイイタイ病をただのリウマチとみずから言い聞かせる人びと、などなど。最近どこかで聞いたような話がでてきます。

ただ40年前の著作ということもあり、昔のインテリ左翼的な上から目線というか、ところどころに独善的な態度を感じさせるのが残念です。また労組は正義だという前提で描かれているようなところもあり、そこも少しひっかかりました。しかしそれらを除けば、社会がどのようにして窮屈で風通しが悪いものとなり、人びとがスポイルされていくのかが描かれた非常に興味深い本でした。
読みながら思ったのは、公害隠ぺいの仕組みって変わらないんだなと。公害問題に限らず、ですかね?

ところで唐突な余談ですが、最近の「工場萌え」について。オブジェとしての工場の魅力は、私もわからないではないです。造形に惚れ惚れする気持ちもよくわかります。
でも、かつて酷い公害をまき散らした工場なんかでも、まだそのまま存在して操業してたりするんですよね。例えば本書に登場するT社のA工場など、その特徴的な立地からファンも多いみたいです(もちろん公害は改善はされているでしょうが。)。
で、そんな工場を、過去の歴史と併せて見ることなく、ただスバラシイと賞賛するってどうなんでしょうか。過去を承知の上で鑑賞するならともかく、知らないで楽しんでいる人もいそうで。そういうユルさって、高度成長期の公害問題や今の原発問題と無関係ではないのでは、なんて思っています。

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