2012/02/25

とある米屋が思うTPP~2012年2月の時点で

近頃、コメ業界周辺での話題、というか心配ごとのひとつはTPPでしょうか。

私はよく「米屋だから当然、強硬にTPPに反対しているだろう」と誤解されがちです。もちろん、生産者の多くにとっては利益よりも不利益になると思われること、またTPPのラディカルさが相当きつく感じられることから、決して賛成ではありません。ですが、コメに関してはTPPへ不参加となったとしても問題の本質は解決しないと思っています。

TPP問題か?コメ問題か?

TPPでコメに絡んで語られる問題の芯の部分は、この度のTPP参加の有無とは関係なく存在していたものではないか、と感じるのです。
私が思う芯とは、コメの「内外価格差」と稲作の「高コスト体質」です。それこそ20年以上前のガットのウルグアイラウンドの頃からずっと、どうにかしないとといけない状態にありながら、騙しだましやり過ごしてきた問題じゃないでしょうか。
これは日本の稲作が本来抱えている問題であり、TPPによって新たに生じた問題ではないのです。むしろTPPの責めにすることで、問題解決から逃げる口実にさえなるのではないか、と思います。

内外価格差

自由化の影響による自給力の低下が懸念されてます。海外のコメが日本市場を席巻し、需要が減少する分だけ日本での作付けが行われなくなり、ひいては生産者の減少、農地の荒廃がおこるという懸念です。
しかし自由化により生産量が落ちるということは、日本のコメのかなりの部分は消費者・需要家に選好されないモノだということを前提にしているわけですよね。瑞穂の国といいながら、日本のコメは素晴らしいと自賛しながら、かくも簡単に海外のコメに負けることを想定している。日本の米と海外のコメとの間には、価格差に見合うクオリティの差はないのが現実だとすれば、まずそこが問題ではないでしょうか。

ところで、世界の平準化により、割を食うのは日本の庶民だと私は考えています。庶民が担っていた仕事、受けていた報酬が途上国の労働者に流れ、彼らと競合状態にあり、それに従い日本の庶民の所得が下がる。従来は日本に住んでいるというだけで受けていたメリット(開き直って言えば「既得権益」)が消えていくわけですよね。一方、米価は下落傾向にあり(H23年はイレギュラーとして)、20年前から見ると2~3割くらい安くなっていますが、でも恐らくそれは庶民、とくに都市部の低所得層の凋落に追いついていない気がします。

しかし、いずれ平準化が進むことにより、日本円が今より弱くなり、途上国と日本の労働者の賃金の差が縮まるなら、コメの内外価格差も消え、あるいは海外のコメは国産に比べて割高になっているかもしれません。そうなった時、私たち国民が過度の負担なく食糧を調達出来るためには、国内の稲作にしっかりと残っていてもらわなければ困るわけで・・・。現在と将来のギャップをどう埋めて稲作を守るのか・・・。

ニーズとずれた高コスト

現在のコメの作付けシェアはコシヒカリが4割近く。それにひとめぼれ、ヒノヒカリとコシヒカリ系統の良食味な品種が続きます。しかし私には、消費者の需要を反映しての結果というよりも生産者の「高く売れるコメ(JAの設定価格が高い品種)を作付けしたい」という気持ちの表れに見えます。数年前、「売れるコメ作り」という言葉をよくききました。その時に感じたニュアンスは、「高くても売れる、付加価値(食味、安全性、環境保全性)のあるコメを作ろう」というものでした。「多くのお客さんが価値を認める結果、高くても売れる米」ではなく、「高い値段を付ける理由が説明できる米」という感じで。しかし、その層の需要以上にそこへ向かって行った生産者の数が多かったような・・・。
コメは年に1回しか作れない故に、生産地サイドが消費者の動向に機敏に対応することは難しいのかもしれません。でも、タイムラグがでるは仕方なくても、自分の思い入れだけでなく、食べる人、最終的にお金を出す人のことを想像してみてほしいと思います。実に様々な嗜好があり、懐具合も人それぞれなんですから。

米屋と農家は・・・

いずれ直視しなければならない現実にどういうやり方で向き合うか、そのひとつがTPPだと思います。しかし上記したように、TPPのラディカルさはキツイ、もう少し緩やかな方法じゃないと日本の稲作はついていけない。よって「決して賛成はできない」というのが、現時点での私の立場。
ですが、農業あるいは商業の現場にいる私達にとって今は、呑気に賛成だ、反対だと議論しているときではなく、TPP後の生き残りを模索することにエネルギーを傾けるべきでしょう。仮にTPPに参加しなくても、この流れは変わらないのですから。


   

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