2012/08/25

節米

去年に続き電力不足が懸念された夏でした。
原発の問題だけでなく、以前から「節電」の必要性は人々に認識されていました。エアコンの設定温度、LED電球や省エネ家電の使用、グリーンカーテン、クール(ウォーム)ビズ・・・等々さまざまな方法で実践されてます。

今年の夏、私は「節電」だけでなく、コメを節約する「節米」も必要なんじゃないか、なんて考えながら過ごしていました。
原発への依存度がもとから低い地方で暮らしていることもあり、電力の供給についてはそれほど切迫したものを感じずにすんだのですが、その代わりコメの供給に対しての不安は消えることがありませんでした。

この「節米」という言葉、適当に思い浮かんだ言葉だったのですが、ネットで検索してみると、国語辞典にも載っている言葉のようです。またこちらのブログには「節米器」なる道具が紹介されています。戦時下には当たり前のように節米が奨励されており、雑誌で節米の方法が指導されたり、地方によっては米の代わりに「ほうとう」を食べることが奨励されたり、また駅弁の包み紙までもが節米を説いていたようです。

しかしまあ、23年秋の収穫、在庫、消費量からしてもっと余裕があってもいいはずなのに、なぜかずっとタイトな感じ、卸売業者も売るコメがないという手持無沙汰な状態がつづきました。
産地か流通段階のどこかに隠されているのではないか?しかし、隠されていたならそろそろ出なきゃおかしい時期になっても、まだ出てこない。ならば、そもそも生産量の推計が間違っていたのではないか?あるいはまさか消費者や小売には必要な量が既に行き渡っているのか?
23年産の不足の原因についてはいろいろな説が考えられていますが、ハッキリしない。事実はどうであったのか不明なまま、24年産の新米時期となりました。真相は迷宮入りしそうです。

このように、米屋はヤキモキしたり、不安を感じながら過ごしてきたわけですが、最終的にそのお米を消費する一般家庭の皆さん、飲食店さん、弁当屋さん等には、なかなかその辺の危機感が伝わっておりませんでした。


まず、23年産の不足原因の一つとして挙げられていたのが、消費者の買いだめです。
放射性物質による汚染の不安から23年の夏には22年産が、秋以降はコメ不足の不安や災害対策用としてかなりの量を買いだめする消費者がいたと聞きます。しかし中には適切に保管されずに虫やカビを発生させ、廃棄されたコメがかなりあるという推理です。


また、業務用で発生する無駄。
飲食店・弁当店などは仕事でやってるわけですから、滅多なことでは炊飯量を減らすわけにはいきません。
お米というのは、食べられるご飯の状態にするのに時間がかかるわけで、お店はあらかじめ炊飯しておかなければなりません。
大抵のお店ではお客様の注文に対して不足しないように炊飯するわけでして、閉店時にご飯が余っているほどに用意されることになります。
余ったご飯は、スタッフのまかない飯にするか、あるいは冷凍保存して焼き飯に使うなどで無駄は減らせるでしょう。しかし、白飯で提供する場合は余った分を翌日に回すのは避けたいところで(なかには一日くらいジャーで保存したり、一晩冷蔵保存されたご飯をチンしたりするお店もあるようですが、衛生・安全の観点や食味の観点から避けていただきたいです。)、基本的には廃棄されていると思われます。

以前読んだ本「日本残酷物語〈5〉近代の暗黒 (平凡社ライブラリー)」に「残飯屋」という商売が描かれていました。残飯を仕入れて、それを貧しい人たちに安価で提供する飯屋が登場します。当時のような不衛生なやり方では論外でありますが、衛生管理がしっかりしていれば余り飯を残飯にせず安価な食材として使用することも可能性としてはありでしょう。食糧危機の到来を予想する人たちもいますし。
そうでなくても現在もエコフィードなどの利用方法もありますね。

ところで、最近の日本人のコメ消費量の平均は1人1年間で1俵を下回るといわれています。しかし、少なからぬ残飯が発生する外食・中食の利用割合が増えていることを考慮すれば、実際に食べている量はもっと少ないのではないか、そして食べられずに廃棄されているコメは相当あるのではないかと思えます。

この数年、コメ余りでダブダブというのが当たり前の状態が続いていましたが、311あたりから風向きが変わったという印象があります。ただ、実際にモノが不足しているかどうかは大いに疑問ですが、円滑な流通とは言えないのは確かです。滞りが発生する歪があり、円滑な流通を阻害する原因となっているのではないでしょうか。
この歪をなくすことが食糧安全保障にも海外のコメとの競合にも必要だと思うのですが。どうも、世間的には無邪気にこの歪をつくり育てる方向に向かっているのではないかと、そんな感じがしています。

2012/08/22

平成24年産早期米価格におもう

8月も下旬に入り、24年産の早期米もだいぶ揃ってきました。
でも、ハッキリ言って高いのです。高すぎて私の周辺では卸売も小売もしらけてしまっています。
震災の影響から高騰した昨年よりもさらに、1俵あたり\2,000~\2,500高い値段が提示されています。白米での原価にすると(1俵=54kgの歩留で)、1kgあたり\37~\46の上昇となります。

昨年よりコメの先物が始まっていることから、「このようなコメの価格も需給を反映した結果だろう」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、それは違います。
現時点では実際、コメの相場というものは全農が鉛筆なめなめ一方的に決めた価格に縛られてしまっています。とくにこのハシリの時期の価格は全農の言い値でほぼ決まりでしょう。JA以外のルートで出荷される場合でも、集荷業者も生産者もJAの決めた概算金(生産者に支払うとりあえずの内金)の水準に引きずられざるを得ないわけです。
では何故、豊作が予想されるうえに輸入米の存在感も気になる今年、全農はこのような高い値段をつけてきたのでしょうか。全農の集荷率はこのところ低迷しています。とくに昨年は全農から卸売へ販売されるコメさえも不足感が強くありました。そこで概算金を高めにすることで農家からの集荷を強化しようというわけです。

ところで、よく勘違いされること。このような高騰時には私らのような流通業者は儲かっているのだろうと誤解する人がいます。まったく冗談じゃない話で、卸売・小売業者は上昇分をそのまま販売価格にスライド転嫁できれば御の字で、ほとんどは価格転嫁しきれずに卸売・小売がかぶるわけです。日本のコメ流通では、この局面でニヤニヤしているのは生産者サイドだけです。

ついでに、これも勘違いしている人がときどきいるのですが、農家は流通業者に搾取されているという誤解。昔話の小作農のイメージが強いのでしょうか、あるいはフェアトレードコーヒーなどで語られる農産物の世界のイメージを日本のコメ業界にまで投影しているのでしょうか。こういう感覚でいる人によって、安易に6次産業化やら、米粉ビジネスやらの物語が語られていることもあろうかと思うと、ちょっと不安です。他の作物はどうか知りませんが、日本のコメ農家は西アフリカのカカオ農園の労働者やタイのコメ農家とは違います。JAや機械、資材の販売業者等はどうだか知りませんが、少なくとも流通業者が農家にたかるようなことはありません。

閑話休題。24年産の価格上昇にもどります。
確かに23年産はさまざまな段階での買占め、出し惜しみにより、1年間つねにコメが足りない感覚がありました。全農への集荷率が低かったため、どこへ行ったのか把握できないコメが多かったことも原因の一つだとは思います。実際、7月の時点で数百袋の在庫を倉庫に抱えていた農家も知ってます。現状では確かに、全農の集荷率が上がれば、コメの所在が把握しやすくなり、供給への不安が和らぐだろうと思います。

でも、私は、昨年に続くこの価格上昇が、コメ離れ、国産米離れを加速させることを危惧します。
たしかに10年以上前の水準と比べれば、今の価格も決して高いものではありません。しかし、消費者、とくに業務用の現場はここ数年の水準に慣れ切っています。というより、その水準で採算合わせるつもりなところも多いわけです。

一方、昨年の高騰からの流れで外国産米に対する抵抗も薄れているようです。西友での中国産米の販売や、松屋などの大手外食による外国産米使用で、一般消費者も偏見が弱まったと思います(米トレサ法による原産地表示の義務化も国内コメ関係者にとっては裏目、むしろ外国産米のアピールの場になってしまった気がします。)。実需者からのSBS枠の拡大への要求も高まっています。

となると、コスト重視の外食中食は、お高くとまった国産米に見切りをつけてくるでしょう。実際、カリフォルニア米を使用し始めた弁当工場は、品質には不満がある(クレームも出ているらしい)けど価格から背に腹は代えられないという感じです。今後、お客さんの舌も慣れて「これでいいや」と一度なってしまえば、よほど価格差が縮まらない限り元の国産米に戻ることはないでしょう。

こう思うと、JAやコメ農家の考えていることがよく判らないのです。ずいぶん呑気にも見えるし、あるいは目先に振り回されているようにも見えるし。今後、どのように海外のコメ生産者と競合していくつもりなのか読めないのです。また、彼ら日本のコメ農家に食糧安全保障を任せても大丈夫なのか!?と心配になります。

業務用の低価格帯は自分には関係ないと考えている農家もいるでしょう。自分たちが売るのは、付加価値の高いコメで、輸入米とはターゲットが違うというのでしょう。海外の富裕層に向けて販売すれば大丈夫だというのでしょうか。
それとも、あくまでもコメの鎖国政策は堅持させる自信があるのでしょうか。
それとも、食糧危機により現在の日本のコメの価格の水準が国際的にも決して高くない位置になる、とみているのでしょうか。