2013/12/06

水田農業改革に思う

先月26日の「農林水産業・地域の活力創造本部(第9回)」で、政府の水田農業改革の全体像がきまったそうで。
水田農業改革を政府が決定 | 農政・農協ニュース | JAcom 農業協同組合新聞

以下は一区切りついたということでのメモ書きです。

当初、「減反廃止」の報道を聞いた時、私はてっきり、「これは改革派のシナリオで行くんだな」と勘違いしていました(ここでは、山下一仁氏や昆吉則氏、浅川芳裕氏など論客を「改革派」と呼ばせてもらいます。)。改革派の主張は新自由主義と相性が良さそうだし、与党幹事長石破茂氏の過去の発言も改革派の影響を感じさせるものでした。
その後、具体的な内容が明らかになるにつれ、「なんか違うな・・・」となり、今に至ります。

さて、この改革プランについては賛否両論(否が多い?)ありますね。
減反廃止決定と補助金改革 各紙の扱いは? 真の農業改革に必要な発想 WEDGE Infinityでは、各新聞社の報道姿勢がサクッとまとめられています。

まず、批判。ざっと二つの立場があるようです。


批判その1

ひとつは、改革派からの批判。
このプランは減反廃止どころか減反強化であり、今まで以上のバラマキだとする批判です。飼料用・米粉用への最大10万5千円/反の補助金という転作への強いインセンティブがあり、実際には減反強化となるという見方です。
飼料用・米粉用への転作が増え主食用の生産が抑制されれば、主食用米の価格は高く維持されたままで、非効率的な農家の淘汰と担い手農家への集約は進まない。相変わらず国民は、消費者として高米価、納税者として補助金という二重の負担がつづく。消費者のコメ離れは加速し、稲作農業が補助金から自立する道はますます遠のく。
たとえば改革派として減反廃止を主張し続けていた山下一仁氏がその代表でしょうか。
戦後農政の大転換「減反廃止」は大手マスコミの大誤報――キヤノングローバル戦略研究所研究主幹・山下一仁|DOL特別レポート|ダイヤモンド・オンライン

高橋洋一氏。
【日本の解き方】「減反5年後廃止」は本当か 補助金廃止は評価できるがバラマキはコメ以外に拡大 - 政治・社会 - ZAKZAK

民主党議員からは補助金頼りの見た目の所得向上について批判が。
農家の所得は13%増えるのではなく6%減る。

意外にも?毎日、朝日も、改革派寄りの意見です。単に「アンチ安倍」ってことでしょうか?
社説:減反政策の廃止 補助金で改革妨げるな- 毎日新聞
(波聞風問)減反廃止 農政大改革、看板に偽りあり 原真人:朝日新聞デジタル
減反見直しても農家所得13%増 農水省試算、補助金増:朝日新聞デジタル

むしろ、バリバリ改革派なイメージの読売や日経のほうが淡々と政府の主張を報じています。こちらは単に「安倍贔屓」ということ?
農業 3本柱で強化 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

確かに今回の政府方針では、需給がダブダブになって価格低下→淘汰で経営マインドを持った農家が残る、というシナリオにはならない感じです。また、日本再興戦略で謳われる華やかな感じともイメージが違うようです。


批判その2

もうひとつの批判は、淘汰されるかもしれない農業者の立場からです。
今回の方針決定があまりにも性急であること、小農切り捨ての国の姿勢が見て取れること、中山間地への理解に欠けること、水田の多面的機能の評価が足りないこと等。
日本型直接支払いや飼料米の補助金についての内容が具体的になるにつれ、批判のトーンは下がってきましたが、居住する集落やこれまでの暮らしの存続についての不安はまだまだ拭えないでしょう。
はたして飼料用米の販売先など見つかるのか、農地維持も含めてこれら補助金はいつまで続くのか・・・。また、専業農家の方が兼業農家よりも厳しい状況に追いやられ先に倒れてしまうのでは、という懸念もあります。
高橋はるみ知事「進め方性急」政府の減反廃止に : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)

上記リンク先ウェッジ誌の記事にもありましたが、地方紙、特に中山間地を多く抱える地域の新聞はこの辺りの不安を伝えます。
鹿児島の情報は南日本新聞 - 社説 : [減反廃止] 丁寧な議論が不可欠だ
AGARA紀伊民報 - 「農政の転換と中山間地」
岐阜のコメ、未来図は 減反見直し、農家賛否 - 岐阜新聞 Web

この不安は、国、とくに農水省の目指しているのイメージがハッキリと見えないことにあるのではないでしょうか。
安倍総理は、
農林水産業を若者に魅力ある産業にし、同時に、日本の農山漁村、ふるさとを守っていく
経営マインドを持った農林水産業者が活躍できる環境を整備し、農業の構造改革を進め成長産業とし、農業・農村全体の所得の増加につなげる
担い手の規模拡大を後押しし、美しいふるさとを守ってまいります。
と力強く語ります。
が、どうも、今回の改革方針はこれらの言葉としっくりこない。
どうも目標とする姿というか想定している改革後のイメージがハッキリと語られてない。なんかモゴモゴと言葉を濁されている、そんな気持ちになるのです。


支持する意見

まあ、あまり見かけないのですが、この改革プランを支持する意見。
有坪民雄氏は、耕作放棄地問題をみる視点から“「中途半端」な減反廃止政策”を効果があるとしています。農地を増やしたい既存の農業者が、集落内での減反割り当てに縛られずに、自然な形で作付けを増やしていける政策だという評価。氏のイメージする改革は改革派のそれよりも穏健で現実的な感じがします。

あと、こういう記事もありました。「英エコノミスト誌」だそうですが、これはいろいろと勘違いしているところがありそうな・・・。
日本の稲作農業:政治の必需品にメス:JBpress(日本ビジネスプレス)


メモ

で、私の感想です。場末の米屋が思いつき勝手に書いてるメモですので、その程度と軽く流してください。

この政策が減反廃止ではなく減反強化であるという指摘はその通りだと思います。が、しかし、その点がこの改革にダメ出しする理由とはならない気がします。
実は正直言って、改革派のシナリオよりも、農水省案の方が現実的で味わい深いようにも思えてきました。

改革派の方達は、収量アップ、大規模化でコスト低減して、国内に流入してくる外国産との競争はおろか、どんどん生産量を増やして輸出しよう!という方向で考えているのだろうと思います。
その立場からすれば、今回の政策は全然方向が違うし、評価できないでしょう。
ただ私、改革派のこれまでの主張に大筋では同意するのですが、具体的な見通しについては些か楽観的で大雑把に過ぎるという印象を持っておりました。改革派的な政策が進められたなら、それはそれで不安が大きかったことでしょう。

国産米需要については人口減・価値観の変化による減少が従来から続いてますが、さらに関税撤廃後は外国産米に奪われる消費がかなりになるでしょう。
生産コストを低減して価格を下げ消費減に歯止めをかけるといっても、コスト削減の余裕は言われてるほどでもなさそうだし、そもそも担い手も含めて生産者・関係者の大部分は生産コスト低減に意欲がある風じゃない。
海外富裕層相手の輸出なんていっても、数はしょぼそうだ。
結局、今のままでは供給過剰でダブダブになることが予想されます。稲作農家の全滅を防ぎ、さらに自立まで目論むには、これまで以上に供給を抑制しなければならない。

ただし、国が生産量を決めて割り当てるのではなく、稲作農家が自分の判断でこれ以上のコメは作らないという判断を下すべきだ、と。
需給見通しの情報は提供するが、その先は自分で判断してほしい。自分のコメが消費側にとってどれほどの価値のものかを正しく自覚して、売れる売れないの判断を各自で下すべきだ。
そして、過剰米が発生しても、自分たちの責任で処理してくれよ。「作る自由」と「作った責任」はセットですよ、と。
安倍総理の次の言葉からそう印象します。
40年以上続いた生産調整の見直しを行って、自らの経営判断で作物をつくれるようにする、そういう農業を実現してまいります。そして、食料安全保障に直結する麦・大豆、飼料用米の生産を振興します。

これからは、コメを食糧として特別扱いするつもりはない。
そんなメッセージが込められているような気もします。まあ、私の勝手な解釈ですが。

そして、転作補助金による生産者のリストラ。
ある程度の低コストでコメを作れる生産者、あるいは、すこしくらい高価でも需要がある食味、品質、個性のあるコメを作れる生産者、つまり主食用米の生産にメリットが有る生産者だけが縮小する主食用国産米市場に残る。
そうでない人は飼料用米などの生産へ。いずれはトウモロコシなど、コメ以外の飼料用作物へとシフトしてもらいたいのでは?
国産米の需要は少なくなるのだから、供給もそれに合わせて減らす。ただし、これまでのように稲作農家の軒数は維持したままで各自の作付け面積を減らすという方向ではなく、主食用稲作農家の数を減らしていくという方向への転換ということでしょうか。
稲作問題の本質は需要量に比して過剰な数の人間がぶら下がっていることだ、と考える立場からすれば、これはありかな?

もし、私が想像したような姿が目標であれば、そりゃハッキリとは言いづらい。ストレートに言うのは少し無体な、というか反発ありそうな感じで、モゴモゴと言葉を濁したくなるでしょう。

しかし、この飼料用米の補助金はいつまでつづくのでしょうか。生産者からみて、補助金貰って飼料米を作るより、もっと魅力的な作物が出てくればいいのですが。どうやって終いにするつもりなのか気になります。まさか、今後ウン十年も続かないとは思いますが・・・。