2013/05/30

産地偽装のニュースに思う

最近、米穀販売業者による産地偽装の報道が多いです。
昨日も次のような記事を読みました。
東京の精米業者書類送検 コメ産地偽装の疑い - 47NEWS(よんななニュース)

事件の内容は東京都内の米穀店が、

  • 産地不明のコメ(未検査米ということ?)をブレンドして「宮城県産ひとめぼれ」として販売していた。
  • このようなブレンド米を特定の産地銘柄米として販売する行為は30年前から続けていた。
  • 昨年4月に計240キロを75,600円で販売。
  • それで不正競争防止法違反で警視庁に書類送検された。


また、FNNの記事(コメ産地偽装販売 精米店社長「本物よりうまいコメ作れる」)によると、
  • 偽装を行なっていたのは業務用精米の配達で一般向けの店頭販売では偽装はなかった。
  • 70歳の経営者は「自分がブレンドすれば、本物よりうまいコメが作れる」と語っている。
  • 2年間でおよそ145万円の利益を上げていた。

こちらの記事(ブレンド米を「ひとめぼれ」偽装 精米会社社長ら書類送検 - MSN産経ニュース)では、

  • 販売先は老人ホーム向け給食会社
  • 平成22年7月から平成24年4月までの期間に約25トン販売し140万円の利益。

ということがわかります。

まじめにやっている身としてはウンザリするような行為ですが、同業者としてこのような事件が起こる背景に関心が向いてしまいます。
以下、この事件について思ったことを書きます。

30年前

まず、30年前から偽装をしていたということ。
30年前といえばまだ食管法の時代。現在に比べて不自由な流通で、手持ちの原料で一定の食味を維持するためにブレンドは必須テクニックだったと聞きます。
そのためか、昔の人は往々にしてブレンド米に産地銘柄を表示して販売することに対し罪の意識が希薄だったりします。ちょうど今の回転寿司で、商品名とネタの本当の姿が違っていても味的にそれっぽかったら、なんとなくスルーされている事象と似たような感じだったのかな、と思います。
表示ルールも30年の間に変遷してきました。現在のJAS表示にも問題は多い。モノの本質を表すものではない、消費者よりも役人や生産者のための制度でしかないという批判もハズレではないでしょう。
しかし、だからといって現在の法を蔑ろにしていいものではありません。また、道府県レベルでの産地区分+品種という銘柄に対して消費者が抱くキャラクターイメージというものが所詮は虚妄であるというならば、法を遵守することでそれを明らかにして行くべきだと思います。

キツイ価格

240kgを75,600円で販売ということは、平均1kgで315円ですか。2年で145万円の利益というのも、恐らく粗利のことでしょう(マスコミや公務員は粗利のことを利益と雑に言う事が多い。)。25tでおよそ145万円だと1kgあたり58円、業務用の粗利としては数量次第ではこんなものかと。月に1tあまりの納入であれば、この程度の粗利でも回していけるでしょう。

315円で粗利58円なら、原価257円。1俵から精米54kg取れたとしても、13,878円/俵。
ちなみに、過去の業界紙を引っ張り出してみたところ、この期間中最も安いと思われる平成22年11月での宮城県産ひとめぼれ1等の市中価格は税別で10,800円/俵。23年に入ると高騰し始め、震災以降は拍車がかかり、24年4月の価格はなんと17,400円/俵。
それぞれの時点での精米販売価格が分からないので何とも言えませんが、いずれの時点でも宮城ひとめぼれを使用するには無理な単価だったのではないでしょうか?

平成22年11月の市中価格(商経アドバイス2010年11月8日)
平成24年4月の市中価格(商経アドバイス2012年4月26日)


これで搗精・配達してるわけですから、まあ、儲かってはいませんね。利益のためというよりも、損失を防ぐためといった方が実情に合っているのでは?
だからって同情はできませんが。

この程度の価格は、業務用ではありえないわけではないのですが、ハッキリ言ってしんどいレベル。自分なら、この価格で品種・産地の指定は受け付けません。価格に合うものから作らせてもらいます。いや、今シーズンならこの価格に合う原料の確保にも不安があるので、新規ならば取引自体を受けないかも。
産地・品種・産年を記載できる原料、つまり農産物検査を受けたコメを使うとすれば、まず1等は無理、2等でもこの価格はちょっとしんどい。でも3等や規格外を使って品質を落とすくらいなら、未検査米を使用して品種の記載なしで販売する方がいい。特に業務用ならば尚更です。
この米穀店もこの価格を守るならば、堂々と「複数原料米」で販売すればよかったのですが。
食味、銘柄、価格の3つはトレードオフの関係にあります。食味、価格が譲れないというのであれば、銘柄へのこだわりは捨てるしかない。食味、銘柄が大事というのであれば価格は高くなる。

しかし思うに、価格が価格だけに、この給食業者も銘柄にはこだわってなかったのではないでしょうか?たまたま「宮城ひとめぼれ」の袋に入っていたけど、味と価格さえ満足できれば銘柄はどうでもいい、気にしてないという感じではなかったのか?銘柄が重要な取引だと米穀店側が勝手に思い込んで、やたらと無意味な苦労をしたなんて話もありがちです。だとしたら、なんとも残念な事件です。

つまり

コメ以外の世界でもありがちですが、どうも皆さん能書きやら銘柄に判断を任せきっているのではないでしょうか。
もちろん、初めて買う時の目安として、産地や品種は便利な基準です。また、農薬、化学肥料の使用状況など五感では判断できないものに関しては表示を信用するしかありません。
しかし、そのコメが美味いかどうか、品質はどうかは、消費者自身が判断できることだし、自信を持って判断してよいことです。有名な産地銘柄であっても、口に合わなければ、そう言っても構わない。大事なのは、食べる人自身が満足できるかどうかですから。
有名産地の良食味品種であっても、個別のコメの善し悪しは生産者の管理や保管次第なのです。産地銘柄ばかりに頼ることを止めて、本質的な価値で判断できるリテラシーが消費者にも必要だと思います。コメの善し悪しは、どこどこ県産のコシヒカリだったら間違いがない、なんて安直なものではないのです。
評判の高い産地銘柄であっても全てのコメが美味いわけではないことを知っておいて頂きたいし、同時に運悪く美味くないコメに当たったとしてもそれでその産地銘柄すべてを否定しないで欲しいのです。
そういった原料のブレ、不安定さを解消して安定した内容の商品を提供することに米穀店のオリジナル商品の価値は有ります。本来は、そのためのブレンドなのです。
そういう基本的な理解の土壌が出来て初めて、瑞穂の国だとかコメの文化だとか自称できるのではないかと。

また、消費者・実需者の方にも妥当な値ごろ感を持っていただきたい。とくに業務店、食のプロであるならばその時点での相場に正しい値ごろ感をもってしかるべきです。そうすることで、悪貨が良貨を駆逐するような状況を避けられると思うのです。


しかし、このブレンド米、どれだけのものなのか一度食べてみたい。取り調べに対しても豪語するくらいだし、コストパフォーマンスはかなり高かった、のかな?。

2013/05/17

全農の24年産米概算金値上は集荷増に効果あったのか?

1ヶ月前のちょっと古い記事ですが。
全農は今年も同じことやるのでは?という噂もちらほらあるので。

全農のコメ集荷量3.1%増、7年ぶり前年上回る :日本経済新聞

昨年に全農が実施した集荷テコ入れは、熱心に農家へ顔を出して出荷を頼んだり、集落営農のキーパーソンを狙ったネゴなどの地道な行動も含まれると思います。
が、このテコ入れの目玉は、やはり概算金の大幅な値上げでしょう。
その結果、24年産米の全農取扱量が前年比3.1%増の276万3000トン、JAグループ全体では前年比1.9%増の367万2000トンとのこと。
記事には、この結果について肯定的な全農幹部の言葉が載っています。
 商社や民間集荷業者との競争が激しく、全農単独目標の300万トンには届かなかったが、集荷てこ入れで「長期低落に歯止めがかかった」(全農幹部)と強調。

しかし、あれだけの無茶な概算金値上げにも関わらず目標300万トンには程遠く、傍から見てこれでは失敗でしょう。
この微妙な増加すらも、補助金たっぷりの新規需要米のおかげで、実は主食用は・・・という見方もあります。

いくら衰退したと言っても全生産量の半分近くはJAグループが取り扱っており、その動きが与える影響は大きいです。
概算金の大幅値上げは、流通、加工、飲食業、最終的には消費者全般と、農民以外の国民全体をカバーする相当な広範囲に悪影響を及ぼしました。
国民生活に大きな犠牲を強いておきながらも、目標達成は失敗。全農は自分たちがかけた迷惑について全く自覚できていないようです。さらに本年度も同じことを繰り返そうとしているとすれば、単なる幼稚な甘えといって過言ではないでしょう。
現在、概算金に起因する高値ゆえ、流通での動きがひどく鈍っています。卸売業者などは高く買わされた在庫についても、ダンピングしてでも捌かなくてはならず、値崩れがおきています。これをかぶるのは中間流通業者。全農は後のことなど知らん顔。
実需の現場からは早期の関税撤廃を含むフェアな流通を待望する声がでるのも当然でしょう。


そもそも、概算金が上がれば農協の集荷率が上がるのか疑問です。

農協に出さずに業者や消費者に販売する場合、価格の設定は二通りあります。
一つは概算金や相場とは関係なしに毎年決まった価格で取引するやり方。
もう一つは概算金を基準にプラスアルファするやり方。

前者は生産者と買手の結び付きが比較的強い場合が多い。生産者の技術もそこそこにあり、安定した品質と量の供給が期待できる場合にはこういう付き合い方もできる。
またこういうコメは、一般消費者向け直売であったり、業務用であっても品質を価格より重視するちょっとこだわった店舗などへ向けられます。
難しいのは、年によっては相場と大きくかけ離れること。生産者から消費者までが一貫して相場とは関係ない値ごろ観を共有していることが必要。途中で誰かが、相場と比較して高いとか安いなどを言い出したら成り立ちません。
この手の価格設定は、そもそも良い時も悪い時も安定した価格での取引を継続することで相場のリスクを消すのが目的です。概算金が上がったからと言って、いきなり農協委託に切り替えということはあまりないはずです。もちろん、一部には目先につられて高い方へ流す生産者もいるとは思いますが。

後者の場合、概算金が上がれば民間業者への販売価格もそれにつられて上がるだけで、概算金が民間業者の買取価格を大きく上回ることはない。別に農協への委託が有利になるわけでもないのです。


わたくしは以上のように考え、概算金の値上げは集荷増に大して効果がないだろうと見ます。
一方、アンフェアな方法による米価の上昇はコメ流通の停滞や消費の低迷をもたらすでしょう。

本当に集荷率を上げたいのならば、生産者との関係の強化、職員の資質の向上、魅力的な企画などにより、生産者がJAへ委託することのメリットを自発的に感じることが必要かと。

さらに、JA取扱量へ影響するのは生産者側の意識、行動だけではありません。
買う側つまり卸売、小売、実需者からみて、JA、全農を通すことに強いメリットがなければダメでしょう。
むしろ見落とされているこっちがポイントかも?