2012/04/14

消費者委員会が議論するお米の表示・・・

内閣府消費者委員会の食品表示部会では「未検査米の品種・産年表示義務化」と「砕米・ふるい下米の混入率の表示義務化」が議論されています。3月28日の第17回会合を報じる業界紙によると「砕米」の混入割合については表示義務付けの方向になりそうだが、その他は見送られる雰囲気だと伝えられています。

今のところ第17回会合の議事録はアップされておらず、詳細はわからないのですが、その前の回、2月20日の第16回会合の議事録がアップされてました。

想像していたとおりで、どうも話が噛み合っていません。
途中、委員の一人からはこんな発言もでるくらい。
要するに、何を議論してほしいかがわからないのです。現状がどうなっていると言われても、今、調べた段階ではこうですということを我々に漠然と言われても、これは全体の表示の中で私がどれだけ重みづけて言うべきなのか、そういうことがわからない。今後はそういうことも含めて検討されるのですか。(鬼武委員)

また、米業界の片隅に身を置く一人として、普段は全農に対していろいろ思うところもある私ですが、今回ばかりは全農代表委員からの発言が至極まっとうに感じられてしまいました。

ふるい下・砕米

まず、砕米・ふるい下(くず米)の混入についてですが、普通はわざわざ入れることはありません。
そもそも、なんで精米ラインに篩その他の選別機があれほど組み込まれていると思っているのでしょうか?スペースを犠牲にし、清掃の手間が増え、ランニングコストが高くなるにもかかわらず。生産者サイドが選別した玄米をただ精米しただけじゃ商品として出せるシロモノにならないからです。
また、主食用米全体の消費量とくず米・中米の発生量、加工用の需要量等の関係を考慮すれば、中米混入自体が限られた価格帯での特殊なケース(で使えるほどの量しかない)であり、従って消費者保護の観点からもプライオリティの高くないテーマであると思われます。

あえてくず米を混入するケースは、とにかく価格を抑えた業務用かディスカウントストアやドラッグストアで売られている激安品くらいに限られるでしょう。業務用の場合は、相手もプロですから内容と価格のバランスについて納得した上でのことでしょうし、炊飯において食べるお客さんも納得できるレベルに仕上げることでしょう。ディスカウントストアの激安米も、値段なりのものだって普通わかるはずですよね。実在の消費者は消費者団体の方々が想定している(理想としている、あるいは都合のいい?)消費者像よりも賢いと思いますよ。

ただ、もしも虚偽の表示がされているならそれは別の問題ですが。例えばこれ(くず米をコシヒカリに偽装「まずい」と苦情 東京の業者3人逮捕  - MSN産経ニュース)など。謳い文句と内容に矛盾があるケース。一部の委員などはこういう悪質なケースが頻繁に生じていると思いこんでいるのかもしれません。
でもこれはくず米の混入率や3点セットの表示義務化とは別の問題。虚偽表示の問題です。また販売者名として、勝手に実在する米穀業者の名称が無断使用されていたわけで、もう偽ブランド品と同じレベルの事件です。
また上記の事件では、仕入れたディスカウントストアも、当時の新潟コシの相場からみた240円/kgという単価の不自然さや、商品の内容からも疑ってしかるべき、食品販売のプロなら判らないのは恥でしょう。
いくら表示する内容をいじくりまわしても、嘘をつく者は嘘をつく。むしろ、農産物検査などによる第三者の確認なしにさまざまな表示ができるとなれば、こういう連中にさらに嘘をつきやすい環境を与えるだけです。そういう連中を排除する仕組みとか、仕入れる側にもある程度責任を持たせるなど、嘘をつくハードルを高くする必要があると思います。

また、このような質問がありましたが、
○青柳委員 先ほどの迫委員の質問と似ているかもしれませんけれども、資料2のグラフなんですが、砕粒と価格の相関関係なんですけれども、このばらつきを見るとほとんど関係ないという感じなんです。そうなると例えば消費者の方は例えば0%のものと15%のものが同じ価格でずっと並んでおりますが、全くわからない状態で買っているという状況になってくるわけです。それと、こんなに実際に差が出るんですか。そこら辺をお聞きしたいと思っています。
そもそも、低価格米の理由はくず米の混入率だけじゃないでしょう。古米であるとか、未検査米だとか、米自体の食味が悪いとか、見てくれが悪いとか、中途半端に余った米(端米)のブレンドだとか、在庫処分とか・・・。

未検査米の品種・産年表示、複数原料米の詳細の表示

現在、品種と産年を表示できるのは農産物検査を受検したコメに限られています。
ここでの議論のひとつは、農産物検査を受検していないコメについても、産年・品種の表示を義務化するべきか、です。
もうひとつは、複数原料米について、原料玄米の品種・産地・産年の内訳の記載を義務化するべきかという議論です。
これは業界の意見と消費者団体の意見が噛みあいません。
【資料3-4】 産地・品種・産年表示等に関する関係者意見一覧 (PDF形式:170KB)の内容も含めまとめてみました。

表示を義務化するべきだという消費者団体側は、

  • 米トレサ法の伝達を根拠に表示すればいい。
  • そもそも目視検査や生産者の自己申告に基づく農産物検査では根拠とするには弱い。
  • 農産物検査でつけられた等級が精米のJAS表示では消費者にわからない。
  • 「複数原料米 国内産 10割」の表示では消費者の知る権利をまもれない。

3点セット表示は困難だとする業界側は、

  • 農産物検査に代わって内容を担保するものが現状存在しない。米トレサの伝達では担保として不十分で、それを根拠にするならば虚偽表示が横行するだろう。
  • 生産者から提出される書類やその他の状況を加味して行う農産物検査はそれなりに信頼性がある。
  • 複数原料米として販売している商品は内容が都度変わることが多く、表示するのは非現実的。

私の考えです。
まず、米トレサ法の伝達は根拠として十分か?
私は嫌ですね、気味が悪い。
よく知っている生産者から直接買ったとか、まあ間に1人くらい入ったとしても出所がよく判っている場合ならいいのですが。
例えば卸売業者から仕入れた未検査米、袋には何の表示もなく、ただ産地・産年・品種が伝票に書いてある。これはどこの誰が確認したのか?卸売業者もどこぞの集荷業者の伝票に書いてあることを写しただけ。これで、表示を義務付けさせられるのは、気持ち悪いですね。
まあ、販売者が責任持てる範囲でなら「未検査」の旨併記で記載してもいいという程度なら理解できますが、義務化はおかしいでしょう。
また、義務化となった場合、それこそH23年産魚沼コシヒカリに、同じく魚沼コシの中米・規格外を混入させている場合は、「単一原料米 魚沼 コシヒカリ H23」という表示が義務付けられることになるでしょう。

農産物検査について。
農産物検査も大抵は地元のJA職員が行っています。種もみの購入、栽培履歴などの書類だけでなく、実際の田んぼの位置や作業の状況まで丸見えです。また近所の目もありますので、この時点で品種について嘘をつくことは難しいでしょう。
少なくともトレサ法の伝達よりは頼りになります。
会合では次のような発言もありました。

○夏目部会長代理 私は米を栽培している生産者の立場と、皆さんのように米を消費する消費者の立場で見ますと、先ほどたびたびお話が出てきますように、お米を栽培して販売をしていくまでは信用取引だと思います。栽培履歴を私たちは一生懸命書きますけれども、それはあくまでも自主申告でありますし、トレーサビリティの根拠になっているのも自主申告なんです。農薬の使用状況も全部自己申告です。そこでもって、それが信用できないということになりますと、全くそれは取引ができない、生産もできない状況になるというのが、これは生産者の現場で申し上げたいと思います。
勿論、米を栽培するときに全く独立して、自分1人だけが例えば人の介在しないような場所でつくるわけではありません。多くの生産者の中で水田というのはあるわけですから、つまり地域の中ではだれがどの段階で例えば農薬を使い、どこの水田、圃場でどの品質をつくっているかというのは一目瞭然なわけです。そういう中で皆さんは一生懸命つくっているということを御理解いただきたいというのが生産者の立場です。
コストと信頼性を考慮すれば、現時点では農産物検査を唯一の表示の根拠にするのがベストではないかと思います。ただ、農産物検査を行っているのがほとんどJAであり、JAに販売委託しない農家は受検しにくいという状況は改善の余地があるのではないでしょうか。JAに委託しない生産者も受検しやすい環境が必要だと思います。

等級について。
ハッキリ言って、等級は原料玄米を精米に加工する米屋、精米業者のためにあるもので、消費者のためにあるのではないと思っています。
消費者にとっては、商品として手にする精米が食味・鮮度・安全性・価格など諸々の観点から見て納得できるものに仕上がっていることにこそ意味があるわけです。精米業者にとって玄米は商品を作る原材料です(このことはブレンド米はもちろん、単一原料米においてもそうです。)。その使い勝手とか歩留の善し悪しによって原料の価格に差が出るのは当然だし、そのための基準も必要です。
また、農産物検査の等級は外観検査だけだと批判する方々もいますが、外観と食味にはある程度の相関関係があると経験から感じてます。そもそも、外観に問題が生じているということは、何らかの問題(栽培技術の未熟、管理の懈怠、生育不良、倒伏、害虫の食害、病気など)があったことをほのめかしているわけですから。
ついでに書きますが、精米する立場から見ると1等の基準って結構低いです。ギリギリ1等に引っかかった玄米は、かなりモノが悪いです。同じ1等でも上の方と比べると、物凄く、大きな差があります。1等での上下差があまりにも大きいので、1等よりも上の等級、例えば「特等」なんてあればいいな、と思ってるくらいです。
ただ、山浦委員が発言しているように、白米においても消費者に示す等級のようなものが必要だろうと思います。とくに購入時に現物を目視できないネット等での取り寄せほど、より必要とされるでしょう。その基準設定の際に考慮されなければならないポイントは多数あり、くず米、砕米の混入率だけの話ではありません。

複数原料米の内容の表示について
【資料3-4】 で主婦連合会は複数原料米について次のように意見しています。

「複数原料米・国内産・10割」との簡略表示が許されていることにより、国内産であれば古米、古古米、ふるい下米、餌米、加工用米、米粉用米を混入しても無表示で良く、違法にならないのは不合理です。
まず気になったのは、餌米、加工用米、米粉用米を主食用に使うのは単一原料米だろうが複数原料米だろうが違法なのじゃないでしょうか?これは複数原料米の表示の仕方とは別の問題でしょう。
また、より詳しい内容が判らなければ嫌だというのなら、このような表示の商品を避ければいいだけの話だと思います。

全体の感想

文字で読んだ限りでの印象ですが、それぞれが代表して出てきた団体の主張を言い合うばかりで、相手の意見を理解しようとする雰囲気が感じられませんでした。何のために顔を合わせて意見交換しているのか。
また、一部の委員の方々は木を見て森を見ていないのではないか、というのが感想です。はたしてそれが消費者にとって意味があることなのか、利益になることなのか。自分たち団体のプレゼンスを高めるのに、この場を利用しているだけじゃないのか?と邪推したくもなります。

未検査だろうが複数原料米だろうが、とにかく表示をさせろって感覚は理解できません。虚偽表示が頻発することでしょう。表示制度そのものが信頼できなくなってしまいます。

しかし、そもそも3点セットの表示だけでお米を解ろうとする安易な感覚がいつまでも蔓延してるのがおかしなこと。そろそろ、そこを疑ってもいいのじゃないでしょうか。

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