2013/11/09

飼料用米に補助金を厚くするらしい件について

減反廃止の議論が本格的になったのが先月の下旬、それからまだ半月くらいしか経っていません。しかし、具体的な内容が明らかになるにつれ、皆さん、変化への高揚感とか期待感などがだんだん薄れてきているのではないでしょうか?
当初、減反廃止がねらう効果とされていた、中小兼業農家の退出と大規模農家への集約、コストダウンによる価格低下と競争力向上などは、ちょっとズレてきたようにも感じられます。

2013/11/09付西日本新聞朝刊の社説は、今回の減反廃止方針について、2003年改正食糧法以降の「戦後農政の大改革」と同様の頓挫を心配しつつ、
農地集約・大規模化よりも今回は農地の維持に力点が置かれている印象が強い。
と分析しています。

来年度から4年間は減反参加者への定額部分補助金は現在の1/3の5,000円/10aとするが規模は問わない、浮いた予算は飼料用米の転作奨励に充てる。現時点ではこの方針とのこと。
東京新聞:減反補助 5000円に減額 来年度から4年間:政治(TOKYO Web)

しかし、10月末にでた農水省の案で転作奨励の補助金を厚くすることが入っていると知ったときは、なんとも違和感がありました(コメ生産量は「農家の判断で」 農水省の減反廃止案:朝日新聞デジタル)。
つい先日、三瀧商事の事件で加工用米が問題になったばかりです。制度により人為的につくられた一物多価は不正の起こるリスクを常にはらむ。転作奨励の補助金がインセンティブとして働くことで消費者無視の独りよがりな稲作を生み、歪められた需給バランスが消費をさらに低迷させる。
「新規需要米」って言葉、どこかに新しい需要が生じていてそれに対応するモノかのような印象を与えますが、どちらかといえば供給側の思惑があって後から無理に需要を作っているのが実際ではないかと。だいたい、最初から補助金付けて思いっきりダンピングしないと買ってもらえないという時点でおかしいでしょう?
そもそもこれ、いつ補助金外すんでしょうか?消費者の舌が慣れ切って、需要者もそれに合わせた設備につぎ込んだころ合いを見計らって補助金をはずすのでしょうか?
まさか、国がそんなヤクザみたいなことはしないでしょうが。


2013/11/07付け記事「減反廃止にカラクリ 補助金減らぬ恐れ :NQNスペシャル :マーケット :日本経済新聞」では、実は減反政策は変わらないとみる理由として次のように説きます。
転作支援については、前回の自民党政権が積極的に取り組み、12年度は52万件、総額2223億円が交付された。民主党の政策と従来の自民党の政策が併存している。
 今回、廃止方向となったのは民主党政権が導入した補償制度で、転作支援の交付金については存続する。キヤノングローバル戦略研究所の山下一仁研究主幹は、「減反補償は従来どおりのため、(転作促進による)生産調整は維持される。その結果、米価も下がらない」と話す。
 それだけではないという。山下氏によれば、現在、主食用米から米粉・飼料用米に転作した場合、農家にはその収入差として10アール当たり8万円を支給している。それに米粉・飼料用米の作付面積(6.8万ヘクタール)を掛けると、総額はおよそ550億円になる。
 山下氏は、政府が仮に、この支給額を10万円に増やし、その効果で米粉・飼料用米の作付面積が20万ヘクタールに拡大した場合、補助金総額は2000億円に膨らみ、民主党の「戸別所得補償」分がそっくり転作支援に入れ替わるとみる。
結局は補助金も作付けも転作扱いの新規需要米に振り分けられるだけで、補助金総額は減らないし主食用の低価格化も起きないという予想です。

一方、2013/11/06付けの「円滑な減反廃止は可能 荒幡克己 岐阜大学教授 :日本経済新聞」では、転作助成の維持と適切な経過措置によってソフトランディングが可能であるとされています。
 減反問題の要諦は、農業部門内での資源配分にある。これまで、需給動向を軽視した高米価路線によるコメ有利の状況で、土地、人などの資源が稲作に偏り過ぎ、増産が必要な飼料作物などに仕向けられなかった。この意味では財政支出の削減を検討する際、コメが有利とならないようコメへの助成を削減し、稲の飼料用仕向けを含めた転作助成は維持するのが妥当である。コメ偏重農政のままでは、減反廃止への道は開けない。
 減反廃止後、市場に任せると、農家の手取りは20%を超えて減少することが予想される(シナリオ1)。長期的に競争力強化を考えるならば、この米価下落に耐え得るコストダウンは実現してほしい。しかし、短期での大幅なコストダウンは限界がある。
 そこでコメへの助成自体にあらかじめ生産刺激の弱い方法を設定しておけば、廃止後の増産と価格暴落を抑制できる。価格下落分を補償するような不足払い(シナリオ2)は、生産刺激が強く財政負担が膨大となる。財政規律を重視すれば、一定額を支払う固定支払い(シナリオ3)とした上で、さらにデカップリング度を高めれば、同程度の農家手取り減でも大幅な財政節約が可能である(シナリオ4)。
減反廃止の効果をいかに高めるかというよりも、いかにそのインパクトを和らげるかに関心が向いている記事です。ここでは減反廃止のプロセスの消化自体が関心の的です。

余剰分を飼料用、加工用などに振り向け隔離することで、主食用米の価格下落を防ぐ。内外価格差の大きな関税なしのMA米の取り扱いと同じ発想ですね。実に農水省的発想による解決方法ではないでしょうか。
ただ、国・農水省が需要のあるコメ、商品を見極めるセンスに欠けているのが問題なのです。補助金付けて安くさせて、農林事務所から宣伝させれば大丈夫、くらいに考えているのかもしれませんが。しかし、この数年をみても判ることですが、変なインセンティブをつけて生産を誘導すると、需要側に必要なコメが足りなく、要らないコメが余りまくるという状態になります。

ところで、2013/11/05の林芳正農林水産大臣の会見でこのような発言がありました。
今、全体需要の大体3分の1が、まあ、こういう外食・中食向けと、まあ、こういうことでありますので、こういう需要に対応するために、やっぱり低コスト生産ということが一つありますし、それから、これに併せて、やはり、この実需者、こういう方々が求めている品質のコメを安定供給すると、こういうことが大事だと思っております。そのためにですね、26年度の予算概算要求ですが、いわゆるブランド米とは異なる品質や価格での供給が求められるですね、業務用米、加工用米の、まあ、生産コスト低減技術の実証と、それから、外食・中食業者や卸業者と、まあ、産地のマッチング、関係者の連携による産地づくり、安定取引の推進、まあ、等へのですね、支援を行うための予算を要求をしております。・・・・・・実需者と産地が一体となってですね、こういう中食・外食等のニーズに応じたコメを安定的に供給できる体制と、こういうものが、を構築を進めていきたいと、こういうふうに思っております。
減反廃止の行方とは関係なしに是非、進めていただきたいことです。

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