2013/11/05

減反廃止の報道から思うこと 前篇

2013年10月24日の産業競争力会議の農業分科会から、数年程度先の減反廃止の検討および来年度からの交付金の見直しが本格的に始まりました。

「減反」見直し着手、補助金削減も検討 TPPにらみ分科会 - SankeiBiz(サンケイビズ)

これまでのところ報道された案はこのような感じ。



11月末には政府方針がまとめられるとのこと。いつかは外されることが必至であるハシゴですが、ここにきて一気に現実的になってきました。一般の関心も高いようです。

この減反廃止・補助金見直しですが、二つの段階に世間の議論があります。

一つ目は、政府、産業競争力会議の目指す農業のあり方についての是非。そもそも、大規模農家に集約し、生産性を高め、国外のコメに対する競争力を強化するという、政府が掲げる目標自体がどうなのかという議論です。

二つ目は、仮に大規模農家へ集約、生産性アップを目指すとして、減反廃止という手段が適しているかの議論です。減反廃止、補助金の縮小~廃止、中山間地は別途支援、加工用・飼料用米は手厚く保護といった政策で、果たして、大規模かつ優秀な専業農家が輝き、兼業農家が退場していくのか?世界に誇れる優れた品質のコメ、世界で通用する価格のコメが生産されるようになるのか?が懸念されているのです。

大規模化促進の是非

減反を廃止すれば、大規模農家への集約 → コストダウン → 生産性向上がおこり、コメの価格も下がる。価格が下がれば国内消費量も増えるし、海外のコメとも張り合えるようになり、関税の撤廃や輸出も可能となる。かねてより山下一仁氏などの改革派が主張していたストーリーがそのまま今回の政府・与党の検討案となっています。

まず、この方針を小農切り捨てと捉えて反対する立場があります。
この発想は、あくまでも「農業保護<農村社会の維持」というスタンスと思われます。農村社会の維持存続のために、農業支援があり、兼業収入確保のために工場等の企業誘致があり、という考え方。改革派が食料安全保障や多面的機能の確保のために農業保護の必要があると考えるのに対して、順番が逆になっています。
農林族議員やJA、左翼言論人に多い考え方だと思われます。
例えば、
岩手日報・論説 2019/10/29「減反廃止検討 小規模農家切り捨てか」
とか
「自民党の減反廃止は、小規模農家切り捨てで1戸当たり所得倍増ということだろう」民主党代表が解説 - 国会傍聴記by下町の太陽 宮崎信行
あるいは短期間で結論を出すことの拙速さを懸念する意見もあります。
社説:減反見直し 一連の議論、仕切り直せ|さきがけonTheWeb

また、そもそも日本国内ではいくら大規模化してもコスト低減には限度がある、オーストラリアやアメリカと同じレベルには成りえないと、大規模化の意義を疑問視する立場があります。
米豪レベルに広大な農地は造れません。日本だと一軒で数十ヘクタールの田んぼを持っていれば結構な大規模農家です。それも干拓地でもない限り結構分散しているし、1枚1枚の面積も数十アールならまだ広い方。移動や農機の出し入れにかかる手間も米豪の比ではない。
稲作は10haくらいで規模拡大によるコストダウンは限界だともいわれています。
さらに、国内の耕地面積の40%は中山間地。棚田に限らずとも1枚1枚が小さいうえに、形も三角形やら台形だったり、妙に細長かったり。そのような農地を集約しても大したコスト低減はできないでしょう。
ただ、集約されるのは農地ではなく農家、ということです。
国内の農地は決して過剰ではないし、輸入分を除いて考慮すれば食料生産能力も決して十分とは言えない。一方、労働力としての稲作農家数は実は過剰ということ。稲作では食えないから兼業するのではなく、農業界には稲作農家全てを食わせるほどの労働需要がないということです。専業なら1人でできる作業に10人も20人もが群がる。だから兼業で充分出来るし、コストも高くなる。一方、意欲的な若い人材は、そのような中途半端な場所に身を置きたいとは思わないはず。この現状を変えていくのが大事です。
集約の意味するところは、農地集積によるコストダウンよりも、農業界の人材リストラによる効率化でしょうか。

さらに、大企業が減反廃止に熱心であることに対する不信があります。
産業競争力会議で減反の廃止を提言したのはローソン最高経営責任者の新浪剛史氏です。言うまでもなくコンビニはおにぎり、弁当類を多く販売しており、コメの生産現場を押さえることは経営に有利であると想像されます。この参入をしやすくする、そして今まで100万軒以上の農家に分散されていた補助金等を新たな利権集団が奪い取るための減反廃止だ、と。
結局、税金を吸い上げるのが農家から一部民間企業に変わるだけのことで、それにしては破壊されるものが大きすぎるという見解です。

ところで、米屋としての私が気になるのは、中山間地の稲作。
中山間地には直接支払いによる支援が提案されているようですが、今のところ内容は不明。そもそも農地の40%を占める中山間地、そのうちどこをどう支援していくのか、有意義な内容なのか?
まあ、安倍首相のお好きな、地元選挙区内にある山口県長門市油谷の棚田などは何か支援が出るかもしれませんが。でも、油谷みたいに魅せるロケーションを持たない中山間地は?
むしろ、地味でなんの変哲もない中山間地にこそ、美味いコメを作る人がいたりするんですよね。押しつけがましい思想だとか、大上段に構えた哲学とか、ハッタリ臭い商品化やら表面だけのブランド化なんかとは無縁の、ただ淡々と研鑽し栽培し、JAや民間業者に出荷する生産者。美味いコメの生産者ってのはそんな中にいる、というのが私の実感です。商売っ気ばかりが先に立った胡散臭い生産者が悪貨のごとくに振る舞い、これら良貨のような生産者を駆逐しやしないか、という懸念を私は強く持っています。
コメ減反の見直し 農家と農村守れるのか - 社説 - 中国新聞
コメ減反見直し 中山間地を置き去りにするな | 社説 | 愛媛新聞ONLINE
社説:減反見直し 一連の議論、仕切り直せ|さきがけonTheWeb
南日本新聞 - 社説 : [減反見直し] あまりにも乱暴すぎる

あと、こういう意見もありますが・・・、申し訳ないですが、私には下記のこれら主張は単なるノイズとしか評価できません・・・
10月28日(月) 苛酷なスクラップ・アンド・ビルドが始まろうとしている:五十嵐仁の転成仁語:So-netブログ
自民党の農業潰しがいよいよ露骨になった - 弁護士 猪野 亨のブログ

長いので一旦切ります。
つづきはこちら。

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