2013/10/17

イオン・三瀧商事偽装事件であれこれ考える

イオングループで販売された弁当などで、「国産米」の表示に関わらず中国産米が使用されていた事件。

量の多さや期間の長さだけでなく、こんな時代錯誤で幼稚でふてぶてしい不正がイオンのような全国的に名の知られた場所で行われていたという点にも驚愕します。
その後、三瀧商事は加工用米を主食用へ転用していたこと、業務用納品だけでなく小売店で販売される袋詰精米商品にも混入していたこと取引先や関連会社などに偽装の協力をさせていたことなどが報じられました。
三瀧商事の偽装は2005年から行われていたとのこと。それから今に至るまでの間、2008年に三笠フーズの事故米不正転売が発覚し、2010年から米トレーサビリティ法が施行されているのにです。

さらに、この事件に関連した記事「『中国猛毒米』偽装 イオンの大罪を暴く」が掲載された週刊文春2013年10/17号 がイオン系列の売り場から撤去される、なんてことも。
朝日新聞デジタル:イオン、週刊文春を撤去 偽装米問題で「誤解与える」 - 社会

この事件、そしてこれをめぐる報道やネット上の意見をみていると、つぎつぎとコメの世界が抱える問題が浮かんできます。

納入価格など

さて、当初このニュースを知った時、まず思ったのは「果たして納入価格はいくらだったのだろう?」ということです。
まあ、なんと2005年から不正をしていたとのことで震災以降の高騰とは関係はなさそうです。が、それでも当時の相場からしておかしくない価格だったのか?
コメの価格というのは国内産でマトモな品物なら、ずば抜けて安いものなんてあり得ません。けっこう出来の悪い酷いコメでも、そこそこの値段します。理由もなく安いモノなんてない。これはJAグループの力ですね。逆にいいコメでも、メチャクチャな価格差があるわけじゃない。
もし、あるラインを越えて安く仕入れたいなら、かつ国内産という条件をはずさないなら、くず米・砕米・未熟粒等の混入を我慢するか、あるいはスーパーでの売れ残りや返品されたもの、精米から時間が経ったものを受け入れるか。いわゆる「捨て場」になるということ。
低価格でなおかつ、品質はおにぎりに使用できる程度にそこそこで、というのであれば外国産とならざるを得ないでしょう。
品質がよくて、安くて、国内産というのは無いものねだりというものです。どこかで無理をすれば道理が引っ込むことになる。
ある程度の規模でやってる企業のバイヤーならそんなこと知らないはずはないし、もし本当に知らなかったとしたらそれも問題でしょう。
まあ、今回の事件での納入価格や要求されていた品質について、具体的で確たる情報がないので、この点については何とも言えません。ただ、スーパーや食品工場からの要求には、価格に限らず無茶が多いことはよく耳にします。配送や搗精の時間を考えれば物理的に無理な精米日を指定されたり、店内でネズミに齧られた商品を返品してきたり。このあたりの事情を掘り下げ公にしないと、この手の事件は無くならないでしょう。
ちなみに、週刊文春10月17日号の記事には米流通業者の発言としてこんなことが書かれています。
「通常、コシヒカリの新米は一キロ三百円ほどの卸値で取引されます。しかし、イオンは『一キロあたり二百円のコシヒカリを持ってこい』というような要求を平気で言う。キロ二百円台のコシヒカリなど、あり得ません。精米や物流にかかるコストを計算すると、そんな値段で入れられるはずがない。だから、我々はイオンの求める値段では不可能とすぐ分かる。
・・・」(週刊文春10月17日号36ページ)

販売店の責任

イオン「品質について100%責任を持ちます」トップバリュー弁当の国産米表示 → 中国産米の混入が発覚 - NAVER まとめ

PB商品については販売者が100%品質に責任を持つからメーカー名は記載しないという見識については、これはありだと思います。
それが嫌な人、つまりメーカーや製造された国や地域がわからないのは嫌だという人は記載のない商品を買わなければいいのですから、記載しないことを批判するのは筋違いだと思います。

ただ、
「イオンのお米は、独自の抜き取り検査で検査済み」
というのはどういう内容の検査なんでしょうかね。
まあ、「安全」とか「安心」を安易に軽々しく売り口上にする輩は大抵が胡散臭いというのが相場ではありますが。
そして今回、自らも被害者であるようなコメントを出していたのにはゲンナリしました。

もうひとつ気になるのが、イオンのプレスリリースが出たのが9月25日、その後ツイッターなどでちらほら話題になっていたのですが、マスコミが本格的に取り上げるまでに数日間のタイムラグがあったこと。現時点でも、規模からしてもっと騒がれてもおかしくない事件なのですが。

加工用

原産国の偽装だけでなく、加工用の転用もあったようです。
誤解する人もいるのですが、加工用というのは菓子など加工食品の原料用という意味であって、肥料や工業製品の原料用ということではありません。食品としての安全性が問題なのではありません。
何が問題かといえば、カネです。加工用米というのは、その作付けについては加工用途に限定して出荷すると生産者が申請することで10aあたり2万円の補助金を受けたものです。その補助金を原資としてダンピングすることで、小麦粉やその他海外からの原料に対する競争力をもたせ消費量を増やそうということです。あくまで加工用として補助金が出されたものを転用し、低価格の恩恵を不正に享受しようとするのですから、これは消費者に対する罪というより、納税者に対する罪です。

未検査米

未検査米というのは農産物検査を受けていないコメというだけのことです。そもそも農産物検査は、放射性物質の検査でもなければ、残留農薬の検査でも、重金属の検査でもありません。産地、品種、産年、等級を確認するだけのもので、食品としての安全性をみる検査ではありません。
勘違いした人もときどきいますが、未検査米を販売したり、食材として使用することになんの問題もありません。ただ、一般消費者向けに品種や産年を記載して販売することは出来ないというだけです(以前は原産国以上の詳細な産地も記載出来なかったのですが、米トレサ法との関係で逆に積極的に記載が求められるようにすらなりました。この辺りのその場しのぎにつぎはぎしたルールがこの業界を複雑でわかりにくいものにしています。浅はかな理解に基づいて思いつきでモノを言うような人たちの声が大きいのも問題でしょう。)。
未検査米には、生産者が品質に自信があり銘柄に頼る必要がなかったり、JA以外に充分な量の直接取引先があったり、業務用需要と結び付いていてJAS表示の必要がなく、わざわざ検査受ける意味がないというポジティブなケースと、JAに出せないくらいの粗悪なものだったり、無知な消費者からぼったくるだけの生産者直売だったりの質の悪いケースとがあり、未検査米という括りだけで内容を判断することはできません。

米トレサ法

報道では2010年に米トレサ法が施行される以前の2005年からこのようなことは継続されていたそうです。しかし農水省のプレスリリースでは平成22年(2010年)10月以降の販売分が偽装であったとなっています。
2005年以降ずっと中国産・米国産米を使用していたが、トレサ法以前は伝票での産地伝達義務も、おにぎりや弁当に原産国を表示する義務もなかったので措置の対象外、ということでしょうか。
トレサ法施行以前、イオンや炊飯業者は原料米の産地など内容についてどう認識していたのか?トレサ法の前後で取引条件等は同じだったのか?なども知りたいところです。
そもそも、SBS米(中国米・米国米)を精米として販売したり、おにぎり、弁当に使用したり、飲食店で提供すること、それ自体はなんら罪ではありません。「この単価でそこそこの品質を要求するならば中国米しかない!」旨をキチンと伝えて、そう表示して納入するべきなのです。
問題なのは、堂々と原産国名を表示せずに、国内産であると小狡く嘘をついていたことです。

安全とは?中国だからだめなのか?

ところで、今回ネットなどで目についたのは、「中国産の毒米を食べさせられた!」という発言。イオンが棚からはずした週刊文春の記事も「中国猛毒米偽装」とタイトルされたものでした。
しかし、あくまで三瀧商事の罪は、虚偽の表示をしたこと、加工用米転用により結果として補助金を不正に利得し食糧たるコメの需給安定を妨害した点にあります。
たしかに中国産農産物の重金属汚染や農薬のずさんな使用は伝え聞くところですし、実際有害であることが発覚した例もあります。しかし、だからといって今回使用されたコメが有毒であったという事実があったのか?
当然に、中国の生産現場に関する伝聞や過去の事件からリスクを避けたいという消費者の意思は尊重されなければなりません。現にこのような事件を起こした企業、下請けの偽装を見抜けなかった企業がいくら安全を請け負っても信用しにくいのは確かです。また、偏見や思想・信条に起因するものであっても特定の原産国のものを買いたくない、食べたくないという意思は同様に尊重されるべきです。それを、虚偽表示で蔑ろにすることは許されない行為です。
が、今回の事件を中国産を使ったからダメだ、安全や健康を脅かされたという風にしては問題がわかりにくくなります。さらに食品は国産だったら即ち安全だという安易な雰囲気を助長しかねません。

内外価格差と一物多価

国内産米と外国産米の価格差。主食用米と加工用米の価格差。そもそもこの価格差があるからこんな悪事を働く者が出る。
ある程度の価格を割り込んでくると、やはり外国産米の方がコストパフォーマンスに優れていると言えるでしょう。国内産ならば、中米、くず米、端米、売れ残り処分品などの価格帯でも外国産ならまともな整粒だったり。
また、加工用と言ってもあくまで制度上の区分で、必ずしもモノが違うわけではない。もちろん加工用として適性がすぐれた品種が作付けされる場合も多いでしょうが、主食用に一般的に使われる品種でも加工用として申請、作付けされれば加工用。税金から補助金つけてダンピングの原資にして加工用原料の国産シェアを上げましょうという発想のもの。
コメ業界以外では一般的な議論に上がりにくい問題ですが、根深い問題です。

需給のミスマッチ

三瀧商事幹部が「イオンに指定された国産米が足りずに中国産を使った」と語ったという報道について、ネットの掲示板などでは「国産米はあまってるのに」といった反応もみられました。幹部発言はいうまでもなく「イオンに指定された内容と価格の国産米が足りない(あるいは存在しない)」という意味でしょう。
なぜコメ農家は需要側の要求を無視した生産を続けていられるのか、という点も考えてみると面白そうです。



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