2012/02/27

松屋、豪州産米使用宣言のインパクト 後編

続きです。前編では米トレサ法、22年産米暴落、原発事故、23年度の高騰、SBS枠米の人気復活、というこの2,3年の流れを振り返ってみました。


過半数は否定的?

まず、2月14日から24日にかけてYahoo! Japanで行われたアンケートでは、豪州産米の牛丼を食べたい人39%、食べたくない52%、わからない11%とのことです(合計が合わないのは、小数点以下は切り上げているようです)。
もちろんこのようなアンケートで実際がわかるわけじゃないのですが、食べたくないという人が半数もいたのは案外驚きでした。


否定的な理由を考えると・・・

まず、外国産米に対する誤解もあると思います。
もう少なくはなりましたが、外国産米といえば93年のコメ不足の時に緊急輸入されたタイ米のイメージで捉えている人がいまだにいます。当時輸入されたタイ米インディカ種は、日本での「ご飯」とは別物です。
最近は現地でも日本の炊飯器で炊いたりするみたいですが、本来は「湯取法」でパラッとさせるのが美味しく、日本のご飯と比較してフワッと軽いのが持ち味です。これを「タイ米は不味い」だの「食べたくない」だのいう人を見ると、うどんを食べようと思ったたけど、うどん玉がなかったから代わりにスパゲッティをつゆにつけて食べ、「こんなのうどんじゃない、食えたもんじゃない」と言っているのと同じように感じるのですが・・・。
ですが、今回使用されるのは短粒種で玄米の状態で輸入されたものです。

つぎに、自国のコメに対する過度の自信です。
なんかアメリカ人がアメ車に対して過剰な自信を持っているのと同じ感じでしょうか?
確かにある程度のレベル以上のモノならば、日本のお米はすごく美味いです。でも、日本でつくられたお米がどれもがスゴイわけじゃない。なかには惰性でつくられているようなモノも・・・。
昔からよく言われてる話ですが、業者に売り込みに来る農家は大抵、「自分のところの米は相当に美味い、そこらの米とは全然違う。」という。だが試食しても、そうとも思えないので、「ところで、貴方は他所の米を食べたことがあるのか?」と尋ねれば、「他所の米みたいな不味いもん、食うわけがない!」と返ってくる・・・。
もちろん、現時点での日本の米のクオリティは決して低くない。しかしコストパフォーマンスや安定供給への信頼性など、評価の対象になるポイントは色々ありますし、決してオーストラリアやアメリカの生産者が日本人農家にくらべて資質で劣るなんてこともないでしょう。
根拠のない自信、慢心によって方向を誤らないことを願います。


今回のニュースのインパクトとは

今回のニュースのインパクトは、米トレサ法により飲食店にコメの産地表示が義務付けられているなか、大手の松屋が外国産米の使用を決めたことにあります。

まず、あの大手が使ってるんだから、と他の飲食店においても外国産米使用の抵抗感が少なくなるでしょう。

そして、消費者の抵抗感もどんどん薄くなっていくと思われます。米トレサ法施行前は外食・中食においては、米の産地の表示義務はありませんでした。これまでも、国内消費量の1%にも満たない数字ですが、SBS枠内で主食用に使える一般米は年間数万トン輸入されてきました。一昨年までは、それとは知らずに外国産米が口にされていたことでしょう。おそらく同じくらいのコストの国内産の超低価格米よりは、クオリティが高かったのじゃないでしょうか。松屋で豪州産米を口にされる方の多くは、肩透かしを食らうかもしれません。「なんだ、案外に普通じゃないか。」と。

TPP参加の議論が始まる以前の段階で、コメの関税引き下げは避けられない問題として存在していました。また、都市住民と比較して、バランスを欠いて過剰な農村の保護を指摘する声もあがっていました(例えば、<偽装農家>という語を生み出した神門善久氏の「日本の食と農 危機の本質 (シリーズ 日本の〈現代〉) 」など)。
米トレサ法には、関税が引下げられた後に外食・中食のコメ需要家を牽制する意味も多分に含まれていたはずだ、私はと邪推しています。しかし、現在程度の需給逼迫と高騰であっさりと外国産米を選択するところが現れた、しかも大手チェーン店が。そして、食べてみたら普通じゃないか、と。そうなる気がしています。


それでも、やはり日本のコメへ期待する

もちろん日本のお米は美味いし、茶碗によそった白い「ご飯」として食べる場合、私は国内産米の一択です。でも、もっと言えば国内産なら何でもいいわけじゃない。国内産でもこれじゃあねえ、ってこともあるんです・・・。
これまで日本のコメ、稲作、コメ農家は関税で守られてきました。私は、それだけじゃないと思ってます。日本の消費者の心に共有されている、農村風景へのノスタルジー、外国産米への偏見といった感情によっても守られてきたのではないでしょうか。しかし、消費者がその錯覚から覚めた時、正々堂々と勝負できるコメだけが生き残るだろうと考えています。

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