2012/03/13

【書籍】『「作りすぎ」が日本の農業をダメにする』(日本経済新聞出版社)川島博之



過剰な農家戸数と生産量が今のコメ問題の本質だと感じている私にとって、非常に共感もし、参考となる本でした。

私は「過疎化対策で農業再建する」とか、「産直や6次産業化で村おこし」などの言葉を聞くと、なんか違和感を感じます。
農業問題であろうが農村問題であろうが、そんなのなんの解決策にもならない。そのことを理解していながら補助金やコンサル料などの付帯するカネの動きを目当てにテキトーなことを言ってる人もいれば、本当に信じてしまっている人もいます。

解決しにくい問題を抱えている人に対して、一見解決策になりそうに思えることを提示して商売にする人がいます。悩める中小企業経営者の周りには、そんな胡散臭げな人たちが寄ってくるものです。曰く、SNSでセルフ・ブランディングだとか、コーチングで売上倍増とか、異業種とコラボするための名刺交換会だとか、まあいろいろとネタをつくってはセミナーやパーティーをいっちょまとめてって感じで・・・。夢を見させてカネを巻き上げようって悪人もいれば、仕掛けてる人自身も本気で信じちゃってる場合もあるわけです。

で、悩める農村もそれと同じように思えるのです。
地域のみんなで集まってイベントを楽しむ程度の認識なら別にいいのですが、そこにもし農業振興の名目で補助金などの公金が使われたりするなら問題があるケースも出てくるのではないでしょうか。

さて、本書の主張の前半は、
  • 人口爆発が食料危機をもたらすことはない。むしろ、食料生産が向上するから人口が増加するのであって、食料が足りなければ人口は増えない。過去の歴史で人口が急増したのは、新大陸発見などによる農地の増加があった16世紀と、化学肥料の普及により単収が増加した1950年以降である。
  • 現在、飢餓ないし栄養不足の原因は紛争、政治的混乱、貧困である。食料の絶対量が足りないのではない。フリーターでも生きていけることが食料の過剰を示している。
ということです。

さらに後半、国内農業に関して、
  • 農業人口は減少し、農民は高齢化しているが、それでも充分な生産が出来てしまっている。過剰な生産によって農産物の価格が低迷していることは、なおも農業労働力が過剰であることを意味する。「農業の担い手不足」を問題とするのは、ものの本質を見ない議論である。
  • 国内のコメは余っているにもかかわらず、海外と比較して価格が高い。過剰な労働力が農業部門に停滞しているが故に農業部門の所得が低いのだが、それを政治的にコメ価格をつり上げることで対処してきた為だ。
  • 歴史的な経緯もあるが、アメリカ、フランスと比較し農民一人当たりの生産量が極めて少ない。その結果、穀物の価格が高く競争力がない。
  • 農民の数が少なくなったから日本農業が衰退したのではなく、農民の数が多すぎて合理化が進まなかったため衰退した。
  • 農業が地方を再生することできない。日本農業が競争力を持つためには農民の数が減らなければならない。
と現状を分析し、
将来の提言として、
  • 規制が悪いとする新自由主義的な意見は当を得たものではない。人口密度の高い日本では農地法を改正しても広い農地を作ることはできない。国土の狭い日本はオランダ型農業を目指すべきだ。
  • コメづくりは自由化により生産量は現在の半分となり、1万個未満の農家に集約されるだろう。
  • 定年帰農は日本農業の発展を阻害しているが、地方を新たな時代にソフトランディングさせる間のつなぎとすることができる。
  • TPP、FTAではコメを例外として参加することが出来るのではないか。日本のコメ市場は現在1兆8000億円、自由化すれば9000億円程度と予想されるが、諸外国にとってそれほど興味をひくものではない。
と語られています。

意外だなと印象に残ったのは終章になって、経団連等の新自由主義的な農民批判は当を得ないものとし、定年帰農など農業振興の真逆をいく動きに対しても、過渡期のつなぎとしてありうると評価しているところです。

本書のほとんどの内容、特に日本農業のこれまでの分析には、「御意!」と感じているのですが、ところどころ引っかかる部分もありました。

まず、コメ自由化が行われた場合、農地の集約が進むという見通しです。私は、その場合もっとも大変なのはある程度の農地を耕作するプロの稲作農家になるのではないかと危惧しています。これまでの倍の労働をして、これまでと同様の収入にしかならないのです。
自由化に先立って、現在のようなバラマキを改め、プロ農家へ傾斜した支援が必要だと感じています。

また、著者はTPPにおいてコメを関税撤廃の例外とすることに楽観的なようですが、難しいのではないでしょうか。海外の生産者だけでなく、日本国内においてもコメの自由化を願っている人たちがいるわけですし。

そして、現状として食料が過剰に生産されているという点は納得するのですが、将来において食料危機がおこることはない、といい切れるかどうか、私にはまだ不安があります。
最近ちらほらと、オランダ型の農業をとりあげて、日本が目指すべきモデルだとして語られているのを目にします(たとえば田村耕太郎氏)。ただ、良い面ばかりでなくそれが持つリスクも考えておきたいです。

長い紹介になってしまいましたが、農業・農産物に関わる方だけでなく、多くの方に読んでいただきたい本です。特に、都市部に居住されて農業に関心を持たれている方に。
(おそらく、農村に暮らし農業をされている方は、ホンネでは過剰な生産、過剰な農家数が農業問題の本質だという本書の主張を理解されているでしょうから・・・。)

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