2012/03/14

【書籍】『贈与米のメカニズムとその世界』(農林統計出版)松本裕子


縁故米、贈与米などの言葉をご存知でしょうか。農家が商品としてではなく、無償または低廉な価格で知人等に分けるお米のことです。
この縁故米は年々増えていると言われているのですが、米屋にとってはその実態がわかりにくく不気味な存在でした。本書は特に生産者から無償譲渡される「無償譲渡米」にスポットを当て分析したもので、非常に興味深いテーマです。

本書によれば消費量の1割近くが無償譲渡米とのこと、改めて量の多さに驚きました(2012年2月9日の新聞記事「絆消費がコメ流通を変える? 縁故米の比率が3割に  :日本経済新聞」ではなんと3割とのこと。)。MA輸入枠が77万トン、それと大差ないわけです。MA米は生産者価格に影響しないようにその大部分は加工用として輸入されていることを思い起こしても、無償譲渡米の規模と価格への影響力は無視できないはずのものです。

本書ではコメ生産構造の違いで地域を分類し、その両極端にある千葉県と新潟県の農家にヒアリング調査を行なっています。
そこから見える共通点は、無償譲渡米は傍系の親戚や知人への挨拶としての贈与と、家を出た子供への贈与の二種類があること。特に量的に重要なのは子供への贈与です。これは、元来は自家飯米として消費していた分が子供の独立により外部化したものと言えます。さらに孫の誕生などで子供の家の員数が増えるに従って譲渡量も増えていくとうわけで、これは生産者が高齢であるほど無償譲渡量が増えることにあらわれています。
それを思うと、農家戸数250万、そこが1戸あたり4人くらい外部化した家族消費があると考えれば、国内消費量の1割近くの無償譲渡米があることも、そりゃそうだろうなと思えてきます。
しかし、農家戸数は過剰なんだなと改めて感じざるを得ません。生産量の1割が生産者の家族によって消費されているなんて・・・。

また、本書では無償譲渡米の存在する理由として、農家経済の二重性をあげています。
農家の自家労働力は、
商品生産労働としての価値を生産する社会的労働部分と、自給生産労働としての使用価値を生産する私的労働部分から成る。(p.61)
としていますが、無償譲渡米は
自給生産から派生する、農家の血縁的関係を核とした資源配分である。 (p.64)
と語られています。

本書でも、
問題は結局戦後日本の農業が一貫して農業における自家労働力の「社会的労働力」を、食管法下での米価スライド式値上げといった政治的方策以外に、正当に評価する経済原理を持ち得なかったところにある。(p.64)
と、指摘されていますが、 この農家経済の二重性は色々な意味で、とくに農政において軽視され過ぎてきたのではと感じます。
また、農業には多くの公金が注ぎ込まれてきましたが、その1割近くがプライベートな消費へと向けられることも気になります。

本書ではさらに、コメ生産の二極化の影響や今後の無償譲渡米の展望などについても書かれています。コメに関わる方、この面妖なる縁故米という存在について理解を深めたい方へお勧めします。

0 件のコメント:

コメントを投稿